2023.01.31
日本は国土の約3分の2が森林に覆われていて、世界有数の森林大国であるということを知っていますか?
一方、林業はほかの一次産業と同じように、人手不足、高齢化、手の入らない人工林の増加など、さまざまな課題を抱えています。
林業が抱えるこれらの課題にブランドを通してアプローチしているのが、愛媛県を拠点に事業を展開するLittle Branchです。
Little Branchは「森を感じる暮らし」をコンセプトに、愛媛県産の原木しいたけの加工品や木製品の販売、林業の現場からの情報発信などを行っています。今回はLittle Branchの代表である小澤さんにインタビューしました。
Little Branch代表
小澤奏
農学部森林科学修了。大学時代に「森に関わって生きていきたい」と思い、卒業後は企業で木質由来バイオプラスチックの研究開発に携わる。その後、より現場に近いところで働きたいと、林業などを手がける企業に転職。2018年、社内ブランドとしてLittle Branchを立ち上げる。2021年より独立しLittle Branchの代表を務める。
インタビュワー
寺田さおり
ライター&料理スタイリスト。地域情報誌、企業広報誌の編集部を経て独立。食、ものづくり、ローカルなどを中心に取材・執筆を行う。料理撮影のスタイリングを手がけることも。書く・撮るはライフワーク。
まずは、小澤さんからGood Good Martをご利用の皆さんへのメッセージをお届けします!
今回ご紹介する商品
森と暮らしをつなげる商品作り
Little Branchの事業について教えてください。
Little Branchで扱う商品は、食品と木製品の大きく2つに分かれます。
食品は、愛媛県産の原木しいたけを使った加工品の開発・製造・販売を行っています。木製品は、愛媛県産の木材を使った日用品やアクセサリー、おもちゃなどを作って販売しています。
しいたけと木製品、意外な組み合わせの商品ラインナップですよね。
Little Branchのコンセプトは「森を感じる暮らし」。森と暮らしをつなげていくような商品を作っています。
原木しいたけの栽培風景
しいたけの栽培方法には、原木栽培と菌床栽培があります。
原木栽培では、森の中でクヌギの木にしいたけの菌を植えて環境を整えると、2年ほどでしいたけが出てきます。自然の状態に近い、とてもサステナブルな生産方法なのです。
一方、菌床栽培ではエリンギやエノキのように、一年を通して生のきのこが安定して安く出荷できます。どちらの栽培方法にもそれぞれのよさがあります。
山奥の廃校を利用して、添加物なし・手作業で作り続ける「おともしいたけ」
イタリアンシェフと共同開発した『おともしいたけ 山椒』
『おともしいたけ 山椒』と『おともしいたけ カレー』はどのような商品なのでしょうか?
「おともしいたけ」は、原木しいたけを使った瓶詰めの商品で、無添加で手作りしています。
愛媛県産の原木干ししいたけを戻してから使っていて、このもどし汁がだしになっています。オリーブオイルとにんにく、唐辛子で炒めた後、もどし汁を入れながら煮詰めます。
これに高知県産の山椒で調味したものが『おともしいたけ 山椒』です。『おともしいたけ カレー』は、カレーパウダーとハーブを使って味付けしています。
しいたけの加工品といえば佃煮が多かったので「ちょっと新しいものを」と考え、イタリアンのシェフとコラボして、和洋折衷な商品を目指しました。
ごはんにはもちろん、パンにも合います。クリームチーズとバゲットに乗せてブルスケッタ風にしても美味しいですよ。
『おともしいたけ 山椒』を加えたオイル系パスタ
『おともしいたけ 山椒』はごはんのおともにもいいけど、パスタやパン、オムレツなど、和洋問わずいろいろな使い方ができます。温野菜と和えるなど、ドレッシングのように使うのもおすすめです。
『おともしいたけ カレー』は甘めの卵焼きに混ぜたり、オムライスの中のごはんの具にするとすごく美味しいですよ。
それは想像しただけでおいしそうです……!
原材料がとてもシンプルですよね。
添加物なし、手作りというところは、当初から変わらず続けています。愛媛県砥部町の山奥にある廃校を加工場にしているんです。
廃校を活用した加工場の様子
廃校!加工場もサステナブルで無駄がない感じです。
廃校といっても古くなく、状態のいい、かわいい木造校舎でした。調理室は申請すれば加工場としてすぐに使える状態だったので、砥部町から許可を得て借りています。
自宅から少し距離があるので、本当は自宅の近くに加工場を作りたいんですけどね(笑)。ただ、今はあるものを使わせてもらっています。学校なので雰囲気はあります!
新しいイメージの干ししいたけを目指した「風の子しいたけ」
「しいたけの商品を作るなら、定番のどんこは作りたかった」と小澤さんが話す『風の子しいたけ そのまんま』
「風の子しいたけ」について教えてください。
原木しいたけを干ししいたけにした、いわゆる「どんこ」と呼ばれるものが『風の子しいたけ そのまんま』です。
低温でじっくり戻したほうが、うまみは強くなります。使う日の前日から冷蔵庫で一晩かけて水で戻すか、時間がないときはお湯を使って戻すと時短になります。
原木しいたけの特徴は肉厚さ。『風の子しいたけ そのまんま』は、原木しいたけならではのぷりぷりとした食感と濃厚な旨味が楽しめます。
事前に水で戻す必要がなく、日々の料理に取り入れやすい『風の子しいたけ すらいす』
『風の子しいたけ すらいす』も使いやすそうですね。
最近は、干ししいたけを水で戻して使うという方は減ってきていますが、『風の子しいたけ すらいす』のように切ってある干ししいたけであれば、味噌汁などの調理中にそのまま入れて使えます。冷蔵庫に常備しておくと便利ですよ。
さらに『風の子しいたけ パウダー』は、原木しいたけを100%使って、細かいパウダー状にしています。味噌汁のだしの代わりだけでなく、炒めものや餃子などに入れてもおいしさがアップします。
なるほど!きのこ100%ということは、ヴィーガンやベジタリアンの方も使いやすそうです。
そうですね。しいたけのうまみ成分はほかの食材のうまみを増幅させると、この前、テレビで見ましたよ。
商品のパッケージもかわいいですよね。「若い人はしいたけを戻してまで使わない」というお話もありましたが、若い人を意識してデザインしているのでしょうか?
原木しいたけの商品を作るとき、定番のどんこやスライスした干ししいたけは商品ライナップに加えたいと思っていました。でも、しいたけのパッケージって地味なものが多かったんです。
そこでデザイナーさんとも相談して、色を入れた新しいイメージのパッケージを意識しました。よく「おしゃれしいたけ」と呼ばれます(笑)。
愛媛県内では道後などの観光地にあるお店でもLittle Branchの商品を置いてもらっていて、お土産やギフト用としても手にとってもらっているようです。
産地の森まで見える木製品の開発
シンプルな一枚板で木目の美しい『愛媛杉のプレート』
『愛媛杉のプレート』はどのような商品なのでしょうか?
木製品は、商品から産地、つまり森まで見えるといいなと思って作っています。そのため、どの商品も無塗装で、無垢の木を使っています。木そのものの手触りや質感を楽しんでもらいたいです。
『愛媛杉のプレート』は、シンプルな一枚板のプレートをアマニ油で拭き上げて仕上げています。また、扱いやすいように側面を斜めにカットし、柾目(まさめ)という木目の一番きれいなところを使っています。
コーヒーとお菓子を置いてちょうどいいサイズを目指して作りました。ほかにも、ちょっとした前菜やパンなどを乗せるのにもちょうどいいです。
ソースやケチャップが付いても、水で洗い流しながらやわらかいスポンジでこするだけで取れるので、毎日手軽に使ってもらえると思います。
私も器が好きなので木のお皿にも挑戦したいなと思っていますが、「油染みがついたらどうしよう……」などと考えると、なかなか手が出せません。
無垢の木というと、初めて使う方にとってはハードルが高く感じるかもしれません。作家もののお皿だと価格が何千円とかになるので、手が出しにくいですよね。
でも『愛媛杉のプレート』はシンプルな形で、福祉施設の方と協力して作っていて、価格は比較的抑えられています。
これくらいの価格であれば、「ちょっとプレートの上で何か切っちゃおうかな」くらい攻めた使い方もできるのではないでしょうか。私もフルーツなどはプレートの上で切っています。
そういうラフな使い方もしてもらえるような商品を目指しています。何よりも「自分が欲しい」と思える商品作りを大切にしています。
前菜を乗せたり、ディスプレイに使ったり、使い方は自由自在
お皿としての使い方がメインでしょうか?
そうですね。大阪ではお客様から「たこ焼きを乗せるのにちょうどいい」と言われたこともあります(笑)。その発想はなかったので「なるほど!」と。ゲストハウスを経営している知人は、おにぎりとお漬物を乗せて使っていると教えてくれました。
お皿としての用途以外にも、苔玉を乗せたり、ディスプレイに使ったりしてもいいと思います。
シンプルなつくりだからこそ、使う人のライフスタイルに合わせて、いろいろな使い方ができそうですね!
プレートのお手入れ方法はありますか?
特に手入れは必要ありませんが、まめな人であれば、ときどきアマニ油を塗るといいですよ。
アマニ油って、スーパーなどで市販されているものでいいのですか?
はい、大丈夫です。木製品の塗装ではアマニ油、もしくはえごま油が使われます。
アマニ油やえごま油なら手軽に手に入るし、手入れもしやすいですね。
ブランドと林業の2足のわらじから生まれるリアリティのある情報発信
愛媛には県土の7割を占める森林が広がる。そのうち6割は植林によるもの
Little Branchをスタートしたきっかけを教えてください。
もともと林業などをやっている会社に所属しており、立ち上がったばかりの企画事業部で「何をやるか」という状態から始まりました。
林業はほかの一次産業と同じように、多くの課題を抱えています。人手不足、高齢化のほか、手の入らない人工林が増えたことで土砂災害の危険性も高まります。
日本は資源といえば森しかないのに、木材の自給率もそれほど高くありません。
日本の持っている森林という資源をもっと生かすことができないか。そういった課題に「商品」という形でアプローチできるブランドとして、2018年4月、Little Branchが生まれました。
小澤さんが林業に興味を持ったのはなぜなのでしょうか?
大学生のとき、森林科学の先生が「森林は人の手で唯一再生可能な資源だ」と言っていて。もともと環境問題などにも興味があったので、そのまま森林の専攻に進みました。
演習林という大学の森があり、そこに泊まり込みで行く、山ごもりのような授業がありました。その授業に行くうちに、理屈だけじゃなく「森って良いな」と感じました。森の中でだけ感じられる感覚があるというか。
現代の生活で、自然に触れることって、みんな求めている部分があると思うんですね。私は森の中では「野生」みたいな気持ちが開かれるんじゃないかなと思っています。
大学卒業後は研究者として森林に貢献しようと思い、企業で木を原料にした新しいプラスチック素材の研究をしていました。
研究も面白かったのですが、林業の現場とはかけ離れすぎていて、ジレンマのようなものも感じていました。そこから先ほどお話しした林業などをやっている会社に転職しました。
小澤さんは林業の現場に通いながらブランドを運営している
2021年1月からは、代表である小澤さんが会社から独立され、現在のブランドを運営されているのですね。
はい。実は今、Little Branchを運営しながら林業の現場にも週2回ほど通っています。林業とブランドと2足のわらじというか。
そうなのですね!
林業の現場では下っ端の下っ端ですけど(笑)。
危険な仕事なんですけど、めちゃくちゃかっこいいんですよ!林業という仕事。それをもっと知ってもらわないともったいないな、とも感じています。
現場で働くことで、林業の状況もリアルなものとして発信ができるという面があります。Little BranchのInstgramやFacebookでは「木はこういうところからやってくる」という部分も含めて発信しています。
ゆくゆくは自分の山が欲しいなという気持ちもあります。
山ですか!
山を拠点にして、商品をもっとフレキシブルに作りながら、山の「場作り」みたいなところから関わっていけたらいいなと思っているんです。
「かわいい」「使いたい」という感覚から商品に触れ、国産の木材を選ぶという形を目指したい
時代を越えて育まれた愛媛の森には多様な恵みが実っている
Little Branchの商品は食品やプレート、アクセサリーなど生活に溶け込むようなものが多いですよね。商品を使ってお客様の暮らしにどんな変化があるといいなと感じますか?
ブランドの役割として、まずは無垢の木や原木しいたけなどに触れる機会を作りたいと思っています。
InstagramやFacebookなどを見てもらえれば森の様子なども発信しているので、そういう情報を知るきっかけにもなれたらうれしいです。
Little Branchの商品から森や木に興味を持ったとき、私たちはどんなアクションをしたら林業界に貢献できるのでしょうか?
木のものを使おうと思ったとき、国産材や県産材を選んでもらうだけで、とてもうれしいです!
例えば、木を使う量が一番多いのは、家を建てるときです。 今は外国産材も国産材もほとんど価格が変わらないので、建物の骨組み(構造体)に国産材を選んでも大きな価格差なくできる場合が多いです。
また、その場所の気候風土で育った木で家を造る方が長持ちするという話もあります。だから、ちょっと気を使って国産や県産の木材を選ぶとか、それが一番取り組みやすいのではないでしょうか。
なかなか家を建てるという人は少ないと思いますが(笑)。
家や家具のような大きい物でなくても、お皿やアクセサリーなどの小物でもいいですよね。
国産材のものを使いたいなと思ったとき、自分が「選びたい」と思える物が少なかったというのも、Little Branchを発案したきっかけです。木製のアクセサリー自体少ないですが、手に取りやすい木製品が少ないなと感じていました。
「貢献する」という意識からではなく、「あ、かわいい!」と思って手に取ったら「実は愛媛県産材を使っているのですよ」という状態が理想です。だから、自然と「暮らしの中に取り入れたい」と思ってもらえる商品作りを心がけています。
スーパーに並んでいる野菜や魚もそうですが、産地がなかなか見えにくいです。そんな中、Little Branchでは産地が見える商品づくりを意識しているのだなということが、とてもよく伝わりました!
食品だと国産や地元産のものを選ぶという意識は、だいぶ高まりつつあります。しかし、木となると、もう一歩離れるというか。外国産か国産か、どこの都道府県のものかって、そこまで気にしないという方が大半ではないでしょうか。
そういうところも、もっと身近なものとして触れてもらえたらいいなと思いますし、実際に近くの森を訪れて欲しい。Little Branchの商品がそのきっかけになれたらうれしいです!
最後にもう一度、小澤さんからGood Good Martをご利用の皆さんへのメッセージをご覧ください!
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