2023.04.26
「毎日食べたいおやつは?」と聞かれたら、どんなお菓子を思い浮かべますか?
毎日食べても飽きない、ごはんのように素朴で、シンプルで、優しい味わいのものおいしいことは大前提に、安心して口にできる素材で作られているもの。できればいろんな味があるとうれしいなあ。
そんないくつもの願いを叶えてくれるお菓子作りの名人が、長崎県西海市にいます。
「ハレの日の特別なお菓子ではなく、日々の暮らしに寄り添うおやつを作りたくて」と柔らかな声で話す「村の菓子工房」の濱浦かをるさんに、「やさいのカリカリ」が誕生し、たくさんの人から愛される商品になるまでの道程をお聞きしました。
村の菓子工房
濱浦かをる
1971年長崎市生まれ。結婚を機に西海市大瀬戸町へ移住。平成21年町の活性化の為に設立された『さいかい元気村協議会』へ加入『村の菓子工房』を起ち上げる。 平成23年協議会より独立。
インタビュワー
赤錆菜々
長崎生まれ、北海道育ち。長野県在住のフリーライター。取材記事を中心に執筆。関心領域は人と自然と食。馬と山が好き。
まずは、濱浦さんからGood Good Martをご利用の皆さんへのメッセージをお届けします!
今回ご紹介する商品
材料の30%〜40%が長崎県産の野菜
じつは私、ニンジンが少々苦手でして……
あ、そうなんですね!
それなのに「にんじんのカリカリ」を食べたら、「何これ!?おいしい!」と、手が止まらなくなったんです。ニンジンの自然な甘みや香りがして、しみじみおいしいなあと。カリッとした軽い口当たりもまた絶妙で。
そんなに!どれも噛むほどに、素材の味が口の中にじんわりと広がりますね。
「やさいのカリカリ」では、生産者さんから購入した、市場に出荷できない野菜を主に使っています。最近は製造量が増えてきたので、それだけでは追いつかず、直売所や地元の農家さんからも仕入れていますが。2023年からは自社栽培にも力を入れ始めました。
原材料の野菜作りまで手掛けてらっしゃるんですね!「市場に出荷できない」とは、たとえばどんな野菜のことですか?
ヒビが入っていたり、傷がついていたり、大きすぎたり、形がわるかったりといった理由で、食べられるのに規格外と見なされてしまう野菜です。それ以外にも、大量に採れすぎて市場に出荷できないケースもあります。
この辺り(長崎県西海市)では、そんな野菜のことをよく「クズ」と言います。ご近所さんに配るときに、「クズがあるとばってん、食べん?」というふうに。
食べられるのに「クズ野菜」と呼ばれることが悲しくて、弊社では積極的に活用させてもらっています。
十分食べられるのに廃棄されたりクズと呼ばれたりする野菜が、濱浦さんたちの手で人気商品に生まれ変わっているんですね。ほかにも特徴やこだわりはありますか?
「やさいのカリカリ」は、原材料に卵、乳製品、小麦粉を使っていない、ヴィーガンかつグルテンフリーのお菓子です。特定原材料7品目*を持ち込まない専用の工房で、原材料のコンタミネーション(混入)に配慮して作っています。
*特定原材料7品目…えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピ ーナッツ)
2022年10月に増設した工房。これまでより広くなり、効率良く作業できるようになった
油で揚げていないので、健康に気を使っている方にもおすすめです。
カリカリとした食感で、揚げているのかと思っていましたが、焼き菓子なんですね!
そうなんです。卵や小麦のアレルゲンが気になる方、健康のために揚げ物の摂取を控えている方、何も気にせずおいしいものを食べたい方など、みなさん一緒に楽しいおやつタイムを過ごしていただけたらと思っています。
製造の工程で何か大変なことはありますか?
手作業で行っている成形と焼きの調整です。ペースト状の生地を絞り袋に入れ、鉄板の上に1本ずつ絞り出して形を作っています。
1本1本、人の手で……すごい。
もともと、こんなに量産することを想定していなくて。かといって、機械を導入するには特注で作ってもらう必要がありますし。
それはたしかに、大ごとになってしまいますね。
成形後は低温のオーブンでじっくりと焼き上げます。焼きムラが出ないよう、途中で鉄板の向きを入れ替えたり、それでも焼きが甘いものは、選別して追加で焼いたりと、手がかかる子なんです。
焼きムラが出ないよう微調整を繰り返しながら、カリッとした食感になるまで低温でじっくりと焼く
量産することを考えると気が遠くなりそうです。と同時になんだか、子どもを育ててらっしゃるような、濱浦さんの温かなまなざしを感じました。
「長崎県特産品新作展」で最優秀賞を受賞
クッキーともスナック菓子ともちがう「やさいのカリカリ」が、どのように誕生したのか気になります。
「やさいのカリカリ」は、かつて弊社の共同経営者であった女性の、「実家で採れる規格外のニンジンを使って、食に制限のある人もない人もみんなで楽しめるお菓子を作りたい」という想いからスタートした商品なんです。
そうだったんですね!
2009年の創業から10年ほどは、ひとつの工房で、ヴィーガンかつグルテンフリーのお菓子と、卵や乳製品、小麦粉を使うケーキ類とを一緒に作っていました。その間に彼女は県外に引っ越すことになり、置き土産として「やさいのカリカリ」のレシピを託していってくれたんです。
濱浦さんが「やさいのカリカリ」を引き継いだんですね。卵や乳製品を使ったケーキも人気だったと聞いていますが、現在はヴィーガンのお菓子しか製造していないのですか?
「ケーキは苦手だけど、村の菓子工房のケーキなら食べられる」という熱心なファンも多かった
はい。いまはもうケーキ類は作っていません。話は少しさかのぼるのですが、2014年ごろ、「やさいのカリカリ」をもっとたくさんの方に知ってもらおうと、「長崎県特産品新作展」に応募してみたんです。そしたら、思いがけず菓子・スイーツ部門で最優秀賞をいただいてしまって。
ええっ!すごいですね!
自分でも驚きました。それまでは店舗での対面販売がほとんどでしたが、受賞をきっかけに卸のお話もたくさんいただくようになりました。その頃から、「ここはアレルギー対応のお菓子屋さんですよね?」と訪ねてくださるお客さまも一気に増えたんです。
当時はまだ同じ工房内で「やさいのカリカリ」と、卵や乳製品を使うケーキ類を作っていたので、コンタミネーションの可能性があることはお伝えして販売していましたが、だんだん心配になってきたんですよね。
卸先の方にもコンタミネーションがあることをお伝えして取引していましたが、その先の小売店で「アレルギーのお子さんも安心です!」と書いたポップと一緒に販売されていたこともあって。
それは心配になりますね。
それならもう、思い切ってコンタミネーションを防げる工房を作ろうと、2020年1月、特定原材料7品目を持ち込まない専用の工房を新設しました。
半ば必要に迫られてだったんですね。
そうなんです。その後もありがたいことにご注文が増え続け、次第に小さな工房では製造が追いつかなくなりました。 そこで2022年10月、「やさいのカリカリ」をより多くの方にお届けできるよう、専用の工房を拡張して、卸販売に特化するようになって現在に至ります。
新工房に併設した小さな販売店舗。「卸販売が中心なので開いていないこともあります。ご来店前にお電話でご確認ください」と濱浦さん
周囲の声に応えながら、少しずつ体制を整えていかれたんですね。
おっしゃる通りです。村の菓子工房を立ち上げて代表になったのも、大きな工房にしたのも、自分の希望でというよりは、必要に迫られてでした。 ただ、もしあの時「長崎県特産品新作展」に出品していなければ、全国の方々に「やさいのカリカリ」をお届けすることも、専用の工房を作ることもなかっただろうと思うと感慨深いですね。
濱浦さんの原動力はどこから来ているんでしょうか?
一言でいえば、心配性なんだと思います。コンタミネーションが起こって、アレルギー反応が出てしまったらどうしようとか、たくさんご注文をいただいているけど、このままの体制では対応しきれないんじゃないかとか。
「希望を胸に、工房を大きくしました!」ではなく、「ご迷惑をおかけしてはいけない」など、どちらかといえばネガティブな想像に突き動かされて、気づけばここまできていた、というのが正直なところです。
「やさいのカリカリ」が憧れの雑貨屋さんに並ぶことを夢見て
白を基調にしたパッケージ、落ち着いたトーンですてきですね。
象形文字のような中央の野菜のイラストも可愛い。「ほうれん草のカリカリ」
ありがとうございます。デザイナーさんに依頼するときに、ふたつお願いしたことがあります。ひとつは、「野菜の種類が『なんとなく』伝わるものにしてください」と。
なんとなく、ですか?
あまりにも直接的に「ほうれん草です!」と主張するパッケージだと、野菜ぎらいのお子さんが、食べたくなくなってしまうと思って。
なるほど!たしかに苦手な野菜の絵が鮮明に描かれていたら、手に取るのをためらってしまうかもしれません。いまのイラストだと、お子さんも手を伸ばしやすそうですね。
「カリカリなら、ご飯前にも罪悪感なく子どもに食べさせられる」「野菜はきらいだけど、カリカリは大好なんです」と、子育て世代からの声も多い
もうひとつ、デザイナーさんにお願いしたこととはなんでしょうか?
陶磁器で有名な長崎の波佐見町に、私の大好きな雑貨屋さんがあるのですが、「その雑貨屋さんに並んでいてもおかしくないようなイメージで作ってください」とお願いしました。センスの良いものばかりが並ぶ、すてきなお店なんです。
わ、良いですね!
おかげさまで、いまでは食料品店だけでなく、アパレル関連のお店や、お花屋さん、書店にも置かせてもらっています。
ちなみにその雑貨屋さんに「やさいのカリカリ」が並ぶという夢は、実現したのでしょうか?
なんと、このパッケージに変わってから数年後、「うちにも置かせてもらえませんか?」とお電話をいただいたんです!
それはうれしい!先方からオファーがあったんですね。
あの時はびっくりしましたし、本当にうれしかったです。
ハレの日の特別なお菓子ではなく、日々の暮らしに寄り添うおやつ
商品開発で大切にしていることはありますか?
毎日でも食べられて、自分の子どもや孫にも安心して食べさせられるお菓子であることです。ハレの日ではなくケの日、日常のお菓子を作りたいと考えています。イメージとしては、台所にある材料で作る、お母さんの味に近いかもしれません。
「やさいのカリカリ」は、まさに毎日のおやつにぴったりですね。最後に、今後の展望について教えていただけますか?
現在は手が空いた時にだけ作っているオートミールクッキーや米粉クッキーも、定番商品として卸販売に対応していきたいと考えています。そのためにも量産できる体制を整え、ヴィーガンのお菓子の幅を広げていきたいですね。
ただ、お店を大きくしたいとは全く思っていないので、時間はかかると思います。右肩上がりではなく、現状維持が好きなんです。だから日々コツコツと、ですね。
それから、お菓子作りを始めたとき、周囲の先輩方からたくさん助けていただきました。素人だった私に、道具や素材の扱い方など、惜しみなく教えてくださったので、これからは私が周りの方に恩返しをしていく番だと思っています。
「やさいのカリカリ」から、ますます温かな世界が広がっていきそうな気がします。濱浦さん、本日はありがとうございました!
最後にもう一度、濱浦さんからGood Good Martをご利用の皆さんへのメッセージをご覧ください!
村の菓子工房の商品